第5映画のまち調布賞授賞式&『シャイロックの子供たち』先行特別上映レポート
2月11日(土・祝)イオンシネマ シアタス調布で開催された第5回映画のまち調布賞授賞式&『シャイロックの子供たち』先行特別上映イベントのレポートをお届けします。
作品賞は、人気キャラクターのアニメーション映画第2弾
『映画 すみっコぐらし 青い月夜の魔法のコ』が受賞。
本賞は調布市民及びイオンシネマ シアタス調布来場者による投票の結果、最上位となった作品に贈られる。


メガフォンを取った大森貴弘監督は「60分という中編映画にこのような名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。ひとえに原作の『すみっコぐらし』を作られた皆さんとスタッフの皆さん、そしてキャラクターの魅力が大きく、このキャラクターたちに対して共感してくださっている調布のたくさんの“すみっコ”の皆さんの投票のおかげです」と述べた。
撮影賞、照明賞、美術賞は佐藤健主演の『護られなかった者たちへ』が
トリプル受賞。


撮影賞を受賞した鍋島淳裕氏は「このような賞をこんな私に授けていただき、本当にありがとうございます。私は東北出身です。本作は、震災で苦しい生活を強いられた“すみっこ”に生きている方々にスポットを当てた作品で、現地の方々にも協力していただけたことに感謝しています。ラストシーンの場所は今では変わってしまって、撮影時とは違う姿形になっています。人々の姿以外にも場所や時を映画に刻むことが出来て良かったと思います」とコメントした。
●選定理由「派手なテクニックに頼らず堅実な撮影スタイルでありながら、要所ではカメラアングルの絶妙な切り替えにより観客に緊張感を与え、物語に集中できる作品に仕上がっていた。
シネスコ(画面比率の一種)の広い画角を生かした的確なカメラワークは登場人物の心の機微を捉えており、キャメラマンの熟練した映像技術が、観客の感情を揺さぶるこの重厚な物語をしっかりと支えている。」

照明賞を受賞したかげつよし氏は「僕は映画が好きでこの世界に入りました。しかも名前が“かげつよし”という照明をやるにはピッタリな名前で…。これからも精進して頑張りたいです」と喜んだ。
●選定理由「避難所ではストーブや蝋燭の灯りによって空間の寒さや寂しさを伝え、けい(倍賞美津子)の家では困窮がうかがえる薄暗さと団欒の温かさを違和感なく両立させるなど、シーンに合わせて緻密に練り上げられた照明づくりが見事である。暗い画面が続く中でも欲しいところに的確に光が当たっていた。照明技師のストーリーに寄り添った丁寧なライティングを高く評価したい。」

美術賞を受賞した松尾文子氏は「この作品で美術賞をいただけたことが嬉しいです。改めてこの作品に携わってくれた仲間たちみんなのおかげで賞をいただけたと思います」と感謝した。
●選定理由「東日本大震災による津波直後の被災地に山をなす瓦礫、生活に困窮する家、役場や避難所となった学校の様子など各所の装置・装飾に説得力があり、観客を日常ではない特異な作品世界に引き込んでいる。
全編に渡って施された「汚し」の塗装などから美術スタッフの膨大な作業量がうかがえ、おそらくは不確定要素も多い規模の大きい撮影現場での仕事ながら、クオリティが高く見ごたえのあるセットを完成させた努力を称賛したい。」
録音賞は、作家・瀬尾まいこによる同名小説を映画化した
『そして、バトンは渡された』が受賞。


白取貢氏は「私は若い頃から日活撮影所や角川大映撮影所でお世話になっております。今回調布市民から選んでいただいた映画賞をいただき、ほかの受賞とは違うアットホーム感と親しみを感じ、今回の受賞を今後の糧にして愛される映画を作っていきたいと思っています」と述べた。
●選定理由「セリフ、効果音、音楽の全てにおいてレベルが高く、それぞれがバランスよく調整された心地よいミキシングであった。ピアノの美しい音色や調理中の美味しそうな効果音などが各場面の魅力を高めており、ストーリーの展開に合わせて音響にも緩急を持たせることで、クライマックスに向けて盛り上げていく音響設計も素晴らしい。ひとつひとつの音の丁寧な処理が作品の完成度を更に高めている、正にプロの仕事である。」
編集賞は、芦田愛菜と宮本信子が共演した『メタモルフォーゼの縁側』
木村悦子氏が受賞。


日活株式会社 小嶋功一氏(木村悦子氏の代理)は「今回の受賞は監督はじめ作品に関わった皆でいただいた賞だと思っています。これからも奢らずに精進していきたいです」(代読)。
●選定理由「日常を描いた静かな作品ながら、繊細かつ大胆な編集で主人公二人のそれぞれの魅力を引き立て、17歳と75歳の友情を爽やかにまとめあげている。じっくり見せたいシーンとあえて省略する部分、また二人それぞれのシーンバック(シーンの長さの配分)のバランスが素晴らしく、扱いの難しい漫画の紙面の挿入も上手い。映画に心地よい余韻を生み出しつつ、編集の存在を感じさせない、自然な仕上がりが見事であった。」
特別賞は株式会社アーク・システム取締役会長の武藤光成氏と
スタイリストの宮本まさ江氏が受賞。

武藤氏は「私は4、50年前に映画の仕事に入り、それから30年ほど前に野川のライトアップを始めました。コロナ禍で3年程中止をしていましたが、今年こそは開催したいです」と意気込んだ。
●選定理由:「照明技師として、劇映画・テレビドラマ、CMなどで多くの経験を積み、1990年調布市内に撮影用照明機材会社を設立。海外の照明器具メーカーと日本向けのライトを開発するなど意欲的に事業を拡大した。この間、自社の花見に際し桜をライトアップしたところ好評を得て自主的に継続、満開の桜が野川の水面に映える景色は調布の春の風物詩となった。映画技術の力で市民に愛される催しをつくりだした功績は多大である。」

株式会社ワードローブの武重裕子氏(宮本まさ江氏の代理)は「衣装の仕事を始めたのが、調布にある日活撮影所の第一衣装が出発でした。映画・ドラマ・舞台・CMそれぞれ衣装の彩が違い、自分なりの衣装演出で監督のお手伝いになればと思いながら撮影の仕事に励んでおります。これからも一つ一つの出会いを大切に励んでいきたいです」(代読)。
●選定理由「1985年第一衣裳入社、フリーを経て調布市内に(株)ワード・ローブを立ち上げる。シナリオ・演出意図を読みこんだ的確な衣装・衣装デザインは高く評価され、大作から独立系映画まで幅広く活躍、テレビドラマ、舞台でも多くの作品を手がける。『夢二』(90)、『マークスの山』 (95)、『わたしのグランパ』(03)、『キングダム』(19)、『燃えよ剣』(21)など関わった映画は200本を超え、衣裳を通じて作品の世界観をつくり上げ、映画製作を支え続けている功績は大きい。」

『シャイロックの子供たち』先行特別上映
ベストセラー作家・池井戸潤による同名小説を映画化した『シャイロックの子供たち』(2月17日公開)の先行特別上映会が、映画の作り手にスポットを当てた映画祭「映画のまち調布 シネマフェスティバル2023」にて実施され、メガフォンを取った本木克英監督と編集担当の川瀬功氏が本編上映前に舞台挨拶を行った。

本作は累計発行部数60万部を突破した池井戸潤による同名小説を原作に、小説ともドラマ版とも展開が異なる初の完全オリジナルストーリー。2018年に大ヒットを記録した池井戸潤原作映画『空飛ぶタイヤ』の本木克英監督はじめ、メインスタッフが再集結。阿部サダヲが主演を務めるほか、上戸彩、玉森裕太らが共演する。ちなみに『空飛ぶタイヤ』は、同映画祭で照明賞と録音賞を受賞している。
約4年ぶりの同映画祭参加の本木監督。池井戸作品は2度目となるが「これは池井戸さんご本人が言っていたことですが、『空飛ぶタイヤ』が自分の立ち位置を決めた小説だとすれば、『シャイロックの子供たち』は書き方を決めた小説とのことです」と著者本人の言葉を紹介した。
本木監督のデビュー作『てなもんや商社』(1998年)以降、本木監督とタッグを組んでいる川瀬氏は、『空飛ぶタイヤ』と『シャイロックの子供たち』の違いについて「弱い立場の人間が強い組織に立ち向かうストーリだが、今回はそこにひねりが効いている。勧善懲悪とはいかないけれど、でも最後はスカッとする。そこが違い」と分析した。

1年4ヶ月前に行われた撮影はコロナ禍真っただ中。それゆえに本木監督は「撮影以外ではみんなマスクにフェイスシールドを着用していたので、自分はいったい誰と仕事をしたのだろうか?という気持ちになった」と回想しながら「幸いなことに撮影がストップすることはなかったので、無事に終わったときはホッとしました」と胸を撫でおろしていた。
また本木監督は撮影時の心境について「脚本の決定稿もクランクインの10日前に出来たりして、自分で撮影をしながらとても不安だった」と告白。そんな不安を払拭するのが編集マンの役目だそうで、撮影と同時進行で編集を行っていた川瀬からの「大丈夫だよ」という言葉に本木監督は大いに勇気づけられたという。編集マンの言葉は監督の心を揺れ動かすようで「監督は編集マンのさりげない一言をかなり気にします。現場では俳優に色々なことを指示しているのに、スタッフからの一言に困ったりする」と苦笑いだった。
主演の阿部の魅力について本木監督は「阿部さんの特徴は、深刻な境遇を持っている役柄であっても軽やかに演じることが出来る。これはなかなか得難いもの」と絶賛。玉森裕太については「アイドル然としていないのがいい。若い世代を代表するような形で模索しながら演じてくれました」と労っていた。

最後に川瀬氏は「この映画を観ると銀行の内部や裏側がわかるので、一行員になった気持ちで楽しんでほしい。過剰に音楽で盛り上げることなく、役者の演技力で引っ張っている作品なので、そこにも注目してほしい」と見どころアピール。本木監督は「自分としてはシリアスな人間ドラマとして作ったけれど、試写では笑いが起きていました。それが意外な反応。20年近く監督をやっていても、こちらの意図と観客の感じ方は違うものだととても勉強になりました。公開を迎えた折には是非とも劇場でご覧ください!」と大ヒットを祈願していた。
(文・写真:石井隼人)
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