第3回映画のまち調布賞 受賞者
主に映画製作の現場を支える技術者や制作会社といった「映画のつくり手」に贈る賞です。
映画・映像関連企業の集積する「映画のまち調布」にふさわしい映画賞として、映画文化、芸術、産業の振興に寄与した映画・映像作品及びその製作に貢献した者を顕彰します。
【技術部門各賞】撮影賞、照明賞、録音賞、美術賞、編集賞(技術部門)
受賞対象:映画製作の現場を支える種々の技術者
選考方法:「映画のまち調布 シネマフェスティバル2021」で上映可能な第3回日本映画人気投票上位10作品の実写映画をノミネートとし、各賞、映画製作において功績のある映画技術スタッフ等で構成する選考委員会で討議の上、受賞者を決定する。
ノミネート作品:『Fukushima 50』、『記憶にございません!』、『楽園』、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』、『蜜蜂と遠雷』、『カツベン!』、『水曜日が消えた』、『今日から俺は!!劇場版』、『惡の華』、『男はつらいよ お帰り 寅さん』
選考委員
○ 撮影賞:稲垣涌三、清水良雄、新井 滋
○ 照明賞:西野哲雄、中須岳士、長嶋建人
○ 録音賞:志満順一、小野寺修、中村 淳、尾崎 聡
○ 美術賞:竹内公一、安藤 篤、岩城南海子
○ 編集賞:宮澤誠一、村本 勝、川島章正
【作品賞】
日本映画人気投票最上位作品とする。
【功労賞】
受賞対象:調布市の映画文化、芸術、産業の振興に多大なる貢献と顕著な実績を残した者
選考方法:調布市内の映画・映像企業等で構成する選考委員会で討議の上、受賞者を決定する。
撮影賞『Fukushima 50』江原 祥二(えばら しょうじ)
【選定理由】
電源を喪失して暗闇になった中央制御室のシーンは、懐中電灯の光だけを光源に撮影されているが、闇の中で役者の表情を違和感なく捉えており、その優れた撮影技術を評価したい。どう撮影するかの設計がしっかりしていた。人物の肩越しや背中越しの2ショットでは絶妙なぼかし表現を披露し、被写界深度の使い方の巧みさが際立っていた。大勢の俳優が集まるシーンの整理も上手く、そのテクニカルな撮影が作品のリアリティを高めていた。
【経歴】
1955年 京都市出身。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)卒業後、東映京都撮影所から京都映画(現・松竹撮影所)撮影部に所属。石原興カメラマンに師事。その後フリーカメラマンとして活動。
主な作品:『鴨川ホルモー』、『キラー・ヴァージンロード』、『のぼうの城』、『超高速参勤交代』、『進撃の巨人』、『信長協奏曲』、『本能寺ホテル』、『マスカレード・ホテル』、『引っ越し大名!』
【受賞コメント】
受賞、大変嬉しく思います。ありがとうございます。ありがちですが、チームの力で頂いたと思います。
東京での仕事も多いのですが普段は京都に住み、太秦で作品作りをしています。
同じ映画のまちとして親近感もあります。また調布で仕事できればいいなと思っています。調布の皆さん、選考委員の方々に感謝します。本当にありがとうございます。
作品の見どころや制作過程のエピソード
原発事故からまだ経過していない中ですので緊張して臨みました。それは帰宅困難区域、避難者、汚染水、残土などの問題があるからです。撮影で苦労したのは全電源喪失した暗闇の中央操作室。防護服のシールドマスクの表情をどこまで見せるか。目の表情を強調すると白い防護服が目立つのでバランスが難しかったです。
クランクインはイチエフ(福島第一原子力発電所)が津波に襲われた後や爆発のロケから入ったのですが、見事な美術、装飾でした。それは完璧な内部セットにつながります。
VFXと相まって見所のひとつです。
担当する仕事の魅力と苦労について
作品に参加する度に新しいことに出会える事が面白いです。そして苦労します。撮影する行為は同じでもテーマなどで随分違うものです。そこにスタッフ一人一人の思いが俳優たちの思いが入り作り込んでいきます。
だから準備した通りになった時や予定通りでない思いがけない素敵なシーンが撮れた時に、この仕事の魅力を感じます。
映画業界を目指す人へメッセージ
面白がって、諦めないでください。
江原さん大解剖!
尊敬する“映画人”について
■工藤栄一(映画監督/『十三人の刺客』、『その後の仁義なき戦い』)
■宮川一夫(撮影/『雨月物語』、『炎上』、『瀬戸内少年野球団』)
調布といえば?
樋口真嗣監督に連れてもらった中華が美味しかった!
照明賞『カツベン!』長田 達也(おさだ たつや)
【選定理由】
大正時代の裸電球の灯りを自然なライティングで見事にとらえ、コメディタッチの作品の世界観をバランス良く表現していた。フルカラーの映像で育った世代には未知の世界でもある「モノクロシーン」の捉え方は評価に値する。また屋外のロケシーンと映画館の内部の繋がりの自然さ、水辺の照り返しを生かしたロマンティックなナイトシーンの照明、自然光のような照明、映画館のなかのスポットや客電など随所に工夫がみられ、全編を通して卓越した照明技術が光っている。
【経歴】
1952年山梨出身。1971年照明助手としてテレビ映画や独立プロダクション作品に参加。1983年森崎東監督作品『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』で照明技師として担当する。以降、現在までテレビドラマ・CM・劇映画90本以上の照明を担当している。
主な作品: 『Shall we ダンス?』、『壬生義士伝』、『舟を編む』、『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』、『空飛ぶタイヤ』、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
【受賞コメント】
「第3回映画のまち調布賞」照明賞、受賞の知らせに大変驚いております。まだまだ第1回の感動がある中、こんなに早く2度 目の受賞に選ばれた事に正直、映画スタッフに光を当てる他に類のない「映画のまち調布 シネマフェスティバル」の意気込みに責任を感じます。調布市の皆様とシネマフェスティバルの関係各位に心から感謝申し上げます。
作品の見どころや制作過程のエピソード
苦労と言うよりも映画創世記の映像を模倣する事で、当時の活動屋の雰囲気を味わうことができ、その白黒サイレントムービーに演者のカツベンが加わるとまるでその時代にタイムスリップした様な撮影現場でした。
担当する仕事の魅力と苦労について
もう長い事この仕事をしておりますので、魅力と言うより照明が生業です。いろんな作品に出会えた事でいろんな経験をさせていただき、苦労より喜びの方が多いです。
映画業界を目指す人へメッセージ
先ずはジャンルに捉われる事なくいろんな映画を観てください。そして、人に語れるくらい好きな作品を見つけて欲しいです。それが目指す道かと・・・。
長田さん大解剖!
尊敬する“映画人”について
■森崎 東(映画監督/『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』、『ペコロスの母に会いに行く』)
尊敬するところ:簡単には語れませんが、照明技師になるイロハを教えて頂いた。
■工藤栄一(映画監督/『十三人の刺客』、『その後の仁義なき戦い』)
尊敬するところ:演出する上で照明に対するこだわりは半端なものではない。
好きな〇〇
■映画・・・『喜劇・女は度胸』、『ウエスタン』、『さらば友よ』
■俳優・・・リノ・ヴァンチュラ、志村 喬
■映画音楽・・・エンニオ・モリコーネ(作曲家)
調布といえば?
深大寺蕎麦
座右の銘
行き当たりばったり
美術賞『カツベン!』磯田 典宏(いそだ のりひろ)
【選定理由】
実在のモデルやエピソードを取りこみながらも、それに縛られずコメディ映画ならではの遊び心のあるセットデザインを描いている。日本各地のロケーション、力の入ったオープンセット、スタジオのセットの合わせ方も巧みである。トイレの塗装や引幕の質感などの細部の丁寧な作りこみが、統一感のある「カツベンの世界」の構築に貢献していた。セットならではの仕掛けを効果的に用い、作中の無声映画を新たに撮影し直すなど、随所に映画愛が感じられる美術制作であった。
【経歴】
長崎県出身、1981年大映東京撮影所(現・角川大映スタジオ)を退所後フリー。1987年に美術監督デビュー、CM、PV、映画で活動する。『のぼうの城』で第36回日本アカデミー賞最優秀美術賞を受賞。
主な作品:『いつかどこかで』、『座頭市』、『スウィングガールズ』、『メゾン・ド・ヒミコ』、『NANA』、『アウトレイジ』シリーズ
【受賞コメント】
大映東京撮影所に勤務していました約10年間、調布市に住んでおりました。調布市は私の仕事の原点になります。この度は映画史に残る活動弁士の映画により、「映画のまち調布」の素晴らしい美術賞を頂きまして、ありがとうございました。
作品の見どころや制作過程のエピソード
大正時代、その雰囲気と活動弁士が活躍した世界をどう出せるかを考えました。「青木館をどうするか」選択肢のある中、セットではなく明治に建てられた築100年の移築された芝居小屋を使い、弁士の声が響き渡ることにこだわりました。また、劇中の無声映画を改めて撮影したりとか、昔ながらの合成など手作り感満載です。
担当する仕事の魅力と苦労について
監督を中心に皆の共通項を探すなか、多くの人々と関わり、一つの目的に集中し作り上げていく事。
映画業界を目指す人へメッセージ
「映画が好き!」が原動力です。ジャンルを絞らず映画を沢山観ることで財産になります。
磯田さん大解剖!
尊敬する“映画人”について
新しい作品と監督との出会いがあって、尊敬と刺激の中で参加してきましたので絞り込めません。
好きな〇〇
■映画・・・
10代の頃、1970年アメリカンニューシネマがブームの中、観る映画に感動と刺激を受ける。
『真夜中のカウボーイ』、『明日に向かって撃て』、『イージー・ライダー』、『俺たちに明日はない』、『卒業』、『いちご白書』まだまだありました。
録音賞『惡の華』柳屋 文彦(やなぎや ふみひこ)
【選定理由】
現場での音、音楽の調和、整音と全てにおいてレベルが高く、全体のバランスの良さを評価したい。なかでも主人公とヒロインがやぐらに上る夜のお祭りのシーンは、エキストラも多く、ノイズの処理に苦労するところだが、セリフは明瞭で臨場感も再現できており、録音技師の高い技術がうかがえる。昔ならアフレコの場面である。全体に、音の違和感を全く生じさせることなく、観客を自然と物語に取りこむ技術は見事であり、作品に対する録音の貢献度は高い。
【経歴】
1967年長崎県出身。録音助手として『ラヂオの時間』、『白痴』、『青の炎』、『突入せよ!「あさま山荘」事件』などに参加。『記憶の音楽-Gb-』で録音技師としてデビュー。
主な作品:『海猿』シリーズ、『劇場版 MOZU』、『響-HIBIKI-』など
【受賞コメント】
録音賞を頂き、本当に嬉しく思います。
監督、スタッフ、そしてこの作品に携わった全ての方々のおかげです。
この作品にスタッフとして参加できたことを誇りに思います。ありがとうございます。
作品の見どころや制作過程のエピソード
この作品のファクターの1つとして過疎化が進む町というのがあるんですが、音でも過疎化を表現できたらと思いながら整音しました。
撮影現場の同録(※)の音から極力雑音を省いて静かな街である事を成立させつつ、登場人物のセリフの強弱で街中で響かせたりなどして無人感を表現してみたのでそこを意識して観て頂けたらと思います。
※同時録音の略。画面撮影と同時に録音すること。
担当する仕事の魅力と苦労について
録音技師の魅力は作品が完成するまで作業に携われることです。撮影現場で試行錯誤しながら録音するのも魅力なのですが、やはり整音です。綺麗に整えられたセリフに効果音と音楽が重なり作品に命が吹き込まれる。魅力しかありません。監督ではありませんが完成した映画は自分の作品だと思えます。
柳屋さん大解剖!
尊敬する“映画人”について
■ゲイリー・リッツオ(音響技師/『インセプション』)
■ウォルター・マーチ(音響技師・編集技師/『カンバセーション…盗聴…』)
好きな〇〇
■映画・・・『インセプション』
編集賞『蜜蜂と遠雷』石川 慶(いしかわ けい)・太田 義則(おおた よしのり)
【選定理由】
転調箇所がはっきりしないクラシック音楽はカッティングポイントが難しいが、優れた編集技術により観客をスムーズにピアノ演奏のシーンへ引き込んでいた。素晴らしいプレイバック編集である。演奏時の手元のUPなどカットインの画と俳優の目や表情、動きの画とを巧みに織り交ぜつつ違和感を全く生じさせなかった。計算された編集を観客に意識させない高度な技術と感性が融合している。
【経歴】
<石川 慶>
東北大学物理学科卒業後、アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキーらを輩出してきたポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。2017年『愚行録』にて長編デビュー。
<太田 義則>
横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)卒業後、『宇宙刑事シリーズ』にて菅野順吉の助手を務め、以後日活撮影所などでフリー助手を経1992年『薄れゆく記憶の中で』で編集技師となる。
主な作品:『キッズ・リターン』、『HANA-BI』、『アウトレイジ』、『THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦』、『愚行録』、『花へんろ特別編 春子の人形』、『みをつくし料理帖』
【受賞コメント】
<石川 慶>
ありがとうございます!太田さんと二人三脚で編集していたのですが、今回は本当に難産で苦しみました。が、そのかいがありました!
<太田 義則>
石川慶監督との共同編集にての編集賞受賞を大変嬉しく思います。『蜜蜂と遠雷』は原作小説の素晴らしい音楽世界をどこまで編集で表現できるかを課題として、色々な方の意見をいただき苦労しながらも大変楽しい編集作業だったので思い入れの強い作品です。
作品の見どころや制作過程のエピソード
<石川 慶>
やはり音楽パートの編集ですね。いくつもある演奏シーンを、どうやって差別化するか、いかにして臨場感を保つかを試行錯誤しました。
<太田 義則>
原作小説の膨大なお話を脚本段階で4人のピアニストにフォーカスして撮影されましたが、撮影された素材をまとめても尚長時間になり、石川監督との編集段階にてストーリー全体の再構成を色々試行錯誤し、どこにたどり着くか?答えを探りながらの編集作業でした。また劇中演奏されるクラッシック音楽を、シーンの表現に合わせて曲自体をピアノ曲として成立させながら編集するのが大変難しかったです。
出演されている 松岡茉優さん、松坂桃李さん、森崎ウィンさん、鈴鹿央士さんたちのピアノ演奏に対する真摯に向き合う努力のおかげで、演奏シーンの迫力が出たのはもちろんですが、編集作業として監修していただいたプロのピアニストの方の1フレーム以下を感知するピアノタッチのシンクロチェックを合格できたのは感謝しかありません。
担当する仕事の魅力と苦労について
<石川 慶>
編集はやってて一番たのしい仕事です。このプロセスでもう一度脚本書いてるような感覚もあります。その反面、やってて一番辛い仕事でもあります。ここで負けるとあとで挽回できないので、必死です。
<太田 義則>
映画の編集作業は現場で撮影した素材を最初に観ることができる幸せな観客であります。苦労といえば、他のパートに比べてちょっと作業風景が地味でメイキングは大体スルーされる。
映画業界を目指す人へメッセージ
<石川 慶>
まず飛び込んでみてください。案外みんな優しいです。
<太田 義則>
これからの映画編集において編集力はもちろん、合成、色調整、音楽編集、効果音などの力も必要になると思います。
石川さん大解剖!
尊敬する“映画人”について
■芦澤明子(撮影監督/『トウキョウソナタ』など)
■持永只仁(人形アニメーション作家/『ちびくろ・さんぼのとらたいじ』など)
■アンジェイ・ワイダ(映画監督/『灰とダイヤモンド』など)
調布といえば?
東京現像所(お世話になりました)
太田さん大解剖!
尊敬する“映画人”について
■浦岡敬一(映画編集/『東京裁判』)映画編集とは何か、を体現してくれた恩師。
■ミロス・フォアマン(映画監督/『ヘアー』、『アマデウス』)音楽と編集の融合が素晴らしい。
好きな〇〇
■映画・・・007シリーズ(特にダニエル・クレーグ作品)。
■俳優・・・ジョディー・フォスター(TV版ペーパームーン、白い家の少女)
■本・・・ゴーメンガースト3部作(マービーン・ピーク)、しゃばけシリーズ(畠中恵)
調布といえば?
カレーのお店「かれんど」のビーフカレー
子どもの頃に夢中だったテレビ、映画、漫画、遊びなど
少年ジャンプ
作品賞 『Fukushima 50』
©2020『Fukushima 50』製作委員会
2011年3月11日午後2時46分に発生し、マグニチュード9.0、最大震度7という、日本の観測史上最大の地震となった東日本大震災時の福島第一原発事故を描く物語。想像を超える被害をもたらした原発事故の現場に残った地元福島出身の作業員たちは、世界のメディアから“Fukushima 50”(フクシマフィフティ)と呼ばれた。死を覚悟して発電所内に残った人々の知られざる“真実”が、明らかになる。
功労賞 株式会社石原プロモーション 代表取締役会長 石原まき子
【選定理由】
戦後の日本映画を代表する日活の大スター石原裕次郎とともに創立した石原プロモーションは、意欲的な製作方針の下『黒部の太陽』など映画史に輝く大作、話題作を世に送り出すとともに、1973年からは調布市に本拠を構え、テレビドラマの製作にも邁進し「西部警察」など国民的人気シリーズを生みだした。
石原裕次郎亡きあとも、渡哲也がその遺志を継いで事業を継続。この間、会長としてその活動を根幹で支え続け、映画映像業界の発展に尽力した。「映画のまち調布」の誇りとして市民に親しまれた同プロモーションの功績は誠に大きい。
【経歴】
1933年 東京生まれ。日劇ダンシングチーム5期生で、52に退団して松竹に入社。女優 北原三枝(きたはらみえ)の芸名でデビューを果たす。映画『狂った果実』で本格デビューした石原裕次郎と出会う。映画界を代表するスターコンビとして一世を風靡する。現在は、石原プロモーション代表取締役会長を務めている。